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東京高等裁判所 昭和60年(ツ)31号 判決 1988年1月25日

上告人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 馬場泰

被上告人 株式会社 大光相互銀行

右代表者代表取締役 堤操

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由について

一  原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  上告人は、昭和五三年二月二八日被上告人から厚生年金保険法に基づく老齢年金収入を返済資金に充てることを貸付条件として二〇〇万円を借り受け、その際、被上告人に対し、右年金の振込先として被上告人との間で普通預金契約を締結して開設した普通預金口座を指定する旨約し、社会保険庁に対してその旨の振込指定をし(以下「本件振込指定」という。)、右振込指定特約により社会保険庁から振込まれて右口座の預金となったものを適宜貸付債務の弁済に振替え充当することを承諾し(以下「本件充当特約」という。)、かつ、貸付債務の返済完了まで普通預金契約を解約できない旨約したこと(以下「本件不解約特約」という。)、

2  上告人は、昭和五四年一二月四日先の借入の残債務一七〇万円と新規貸付一三〇万円を合わせて三〇〇万円の消費貸借として本件貸付を受けたこと、その弁済方法も先の貸付と同様であること、

3  上告人は、昭和五六年四月二五日被上告人の支店に上告人名義の普通預金口座(以下「本件口座」という。)を開設したこと、

4  上告人は、昭和五七年一〇月二一日、被上告人に対し右預金契約を解約する旨の意思表示をしたこと、同年一一月一日社会保険庁より本件口座宛に上告人の老齢年金給付金三九万七二七五円(以下「本件年金」という。)の振込送金を受けたこと、

二  原審は右の事実を前提とし、本件不解約特約は厚生年金保険法四一条一項の適用を潜脱するもので無効であるから、本件口座は解約され、被上告人に本件年金の受領権限はなく、本件年金を本件充当特約により債務の弁済として充当することはできないが、上告人が被上告人に対し本件年金を不当利得返還請求権とし返還を請求しうる以上、被上告人がこれを受働債権として相殺に供することは許されるとし、上告人の本訴請求を理由がないと判断した。

三  しかしながら、原審の確定した前記事実関係によれば、上告人は被上告人からの借入金の返済方法として、本件振込指定、本件充当特約、本件不解約特約を締結したものであり、これらの特約等は被上告人にとり債権回収のため担保的機能を営むことは否定しえないとしても、本件口座に振り込まれた年金は預金に転化し、上告人の一般財産と混同するのであって、被上告人が年金受給権自体を差押え又はこれに担保権を設定したものではないから、本件不解約特約が厚生年金保険法四一条一項の規定を潜脱するものとはいえない。してみれば、本件不解約特約は無効とはいえないから、被上告人が本件振込指定及び本件充当特約に基づき本件口座に振り込まれ預金となった本件年金に相当する金額を本件貸付債務の弁済として充当することは当然許されるものといわなければならない。

以上の次第で、原判決の理由の一部は相当ではないが、原判決はその結論において相当というべく、論旨は、原判決の結論に影響しない点につきこれを論難するにすぎないものであって、原判決にこれを破棄すべき違法はない。論旨は採用することができない。

四  よって、民事訴訟法四〇一条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木弘 裁判官 時岡泰 宇佐見隆男)

<以下省略>

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